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| 綾川町字牛之子堂、旧綾上町役場から車で10分ほど。林業家東川政太郎さんが所有されるヒノキ林があります。植えてから34〜35年、3回目の間伐が終わった山をご案内いただきました。広さは約10町歩(10ヘクタール)、東川さんご自身が植林されたヒノキ・スギの混植林です。主にヒノキを育てる林ですが、2割程度スギを混ぜて植えると、比較的早く成長するスギにつられ、ヒノキもまっすぐ良く伸びるそうです。県内で混植されている例は珍しく、長年の東川さんの経験によるものです。「目標は百年」と、長伐期優良材を育てるべく、手入れを続けておられます。 |
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| 35年前、1ヘクタールに3500〜4000本植林し、3回の間伐を経て、現在は1000本ほどになっています。最初の2回の間伐では直径の細い材しか出材できませんから、価格が安く市場へは売っても採算がとれません。3回目の今回初めて、三好の原木市場へ出荷しました。国産材の価格は下がり続け、ヒノキ材はピーク時の10分の1くらいになっています。 東川さんは、60年間人を雇って造林を続けています。伐採にも人件費や機械の借り賃がかかり、「これだけ木材の値段が安くなったら、エライ」と、言われます。5,6年前は、ヒノキの市場価格は「ボロ」でも4,5万円(1立方あたり)だったそうです。現在の原木市場の市況価格では、最も高いヒノキの「直」材でもおよそ2万5千円。「小曲」材、「曲」材という曲がった材や径の小さいものでは、5千円をきります。 三好の原木市場の売り上げ伝票を見せていただくと、ある日の精算分では出荷材の7割は、ヒノキの長さ3メートル直径11センチから16センチ、単価が1万2千円から2万1千円(1立方あたり)の「柱」材や「バタ」材が占めていました。 東川さんの山は、地元の経験者に頼み、伐採から搬出、市場へ運送しています。「だいたい1立方あたり1万円で伐採と搬出をしないと、採算がとれない」ということです。徳島県三好の市場までの運送費がその上にかかります。 植えて35年までの間伐には、県から補助金がでますが、それでもこの牛之子堂の間伐は「たぶん赤字」だそうです。伐れば伐るほど、東川さんの持ち出しになります。もちろん、35年前に植林した費用や過去の間伐の費用を加えると、採算はとれません。 |
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| 平成9年、東川さんの育てた木材が優秀と認められ、全国農林水産祭において農林水産大臣賞を受賞されました。 今年で90歳になる東川さんは、太平洋戦争に20代を召集され、敗戦後帰ってから、農地解放で田畑をなくし、「途方にくれた」そうです。そのときから、手元に残った山林に熱中されました。お祖父様が造林に熱心で、「私の山の先生は祖父」とおっしゃいます。お祖父様、お父様、3代にわたって、木を育て、伐り、売って、その収益でまた植林し育てる、という長いサイクルの林業を続けてこられました。 |
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東川さんが所有する山林は県内各地に点在しています。先祖から受け継いだ山林に、戦後買い足し、あわせて100ヘクタール以上にもなりました。寒川町には80年を越えるヒノキ林、阿讃山脈徳島県境を越えたあたりにも100年生のヒノキ林をお持ちです。![]() |
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| 新しく山林を買うときには、道と土質を良く見るのだそうです。道のつきかたによっては搬出に手間がかかります。また、肥沃な林地を選ばなければ木がよく成長しません。 植林するヒノキは種から育てた実生の苗木に、挿し木苗を混ぜて植えるそうです。成長は実生の苗が土地に合うようで早いけれど、挿し木苗はまっすぐ直通に伸びるそうです。市場の価格は、直通な材と曲がり材では倍以上違いますから、直通に成長することは重要です。 林業とは、植え、手入れし、伐るという一見単純な作業の繰り返しです。植林直後から始まる苗木の周りの雑草の下刈り、節の少ないヒノキ材を育てるための枝打ち。劣性間伐といって、曲がった木や成長の遅い木を間伐する、間伐木の選定。継続するために、良い値で売れるヒノキを育てなければなりません。 この山で伐採に携わった人たちもほとんど60歳以上、70歳を越えた人もおられました。「歳のいった慣れた人の方が心配ない」そうです。知識も技術も、若い人たちより優れています。長年の経験で培われた生きた知識が優良なヒノキ材を作っています。 |
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| 東川さんは今でも、作業の人たちの先頭に立って、山に入っておられます。「山づくりを他人任せにしているところではまず成功しない」とお考えです。ここの山のあとは、琴南町で7年生のヒノキの枝打ちなどの作業をされています。枝打ちしながら、ヒノキ林を見ると見事に繁っていたそうです。「今から何年先かな、わからんけれど。次の代のために‥」と笑っておっしゃいます。「手入れだけしとったら、いい時期もくると信じているんです。昔から時代は変わっていくから」。木材がもっと必要になる時代もきっとくるのかもしれません。 急な山腹を力みもなく、無理もなく、ゆっくり一歩づつ登って行く東川さん。長年林業を続けている人の確かな足運びです。収穫に50年もかかる林業とはどのようなものなのか。林業を継続するとはどういうことなのか。軽々と急斜面を登る東川さんの後ろ姿をみながら、そんなことを考えました。 この山はこれから、下草も緑に育ち、ヒノキも高く繁ることでしょう。いつか、ヒノキが伐採され利用できるまでには、また何十年もの長い時間がかかるのです。 |
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(平成19年2月)
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